アーバスキュラー菌根菌 (AM菌) がリン資源枯渇を乗り切り持続可能な次世代の農業を支える希望となるか?
慣行栽培によるリン資源の枯渇
我々が普段食べている野菜の多くは農薬や化学肥料を使った慣行栽培によって作られていますが、今のやり方が永遠に続けられる訳ではありません。
石油などの化石燃料が有限な資源であることは知られていますが、化学肥料の原料となるリン鉱石もまた貴重な天然資源です。
日本では肥料として家畜の糞や屎尿を使う有機栽培が定着していましたが、戦後GHQの指示によって日本政府が人糞肥料の使用を中止するよう命じました。
人糞肥料に含まれる細菌や寄生虫が野菜に混入する衛生面の問題はたしかにありましたが、日本の農業に化学肥料を導入したいというアメリカの思惑もあったのではないかと思います。
実際この一大転換によって日本の農業は過剰な農薬と化学肥料に依存することになり、その多くを輸入に頼るかたちとなっています。
植物にとって欠かすことのできない三大栄養素と言われている窒素(N), リン酸(P), カリウム(K)のうち特に貴重なのがリン酸で原料のリン鉱石はあと50年~100年もすると枯渇してしまうそうです。
まだ遠い先の未来に感じますが地球の歴史からするとほんの一瞬で人類が使い切りそうな感覚です。
特に日本は黒ボク土という火山灰に由来した土が土壌に多く含まれており、リン酸の吸収率が高くリン酸が効きにくい環境です。
地中の鉄やアルミニウムと結合したリン酸は難溶性で植物が吸収できなくなり、その分過剰に施肥してやらないと効果が薄れます。
リン鉱石の生産量は中国・アメリカ・モロッコ (西サハラ) で7割以上を占めており、リン資源の乏しい日本はわざわざ効きにくい肥料を海外から輸入している状態です。
同じリン肥料でも有機肥料であればリン酸と有機物が結合されているので、化学肥料よりも難溶性しにくく有機物と結合したリン酸は植物の根や土壌微生物から分泌される酵素によって無機化され栄養として吸収します。
もともと日本では自国の土地に適した有機肥料を使った農業を行っていたわけです。
近年では世界的な食に対する安全への関心が高まっており、農薬規制や有機農業が急速に拡大しつつあります。
もし戦後すぐに化学肥料と同じくらい有機肥料の研究を続けていれば次世代農業をリードする存在になれたでしょう。
地道に研究や普及に務める機関も存在しますが、日本の耕地面積における有機栽培の畑の割合はわずか約0.2%しかなく、1%に満たないのは中国やアメリカといったリン鉱石の生産国です。
リン鉱石が採れないのに化学肥料に依存する日本の農業がいかに特殊か、かつて有機栽培が盛んに行われていただけになおさら実感します。
アーバスキュラー菌根菌 (AM菌)
自然に生えている草木は人間が肥料を与えなくても青々と茂り、何百年・何千年経っても栄養が枯渇することなく存在し続けます。
雨水・動物の死骸や糞・枯れ草・落ち葉などの栄養分が絶えず循環していることも考えられますが、地中にはまだあまり解明されていない微生物や菌類の共生圏が形成され、植物との相互作用によって成り立っていることが確認されています。
人間が無菌状態では生きられないのと同じように、植物も微生物や菌根菌と共生することで厳しい自然環境を生き抜いています。
その中でもアーバスキュラー菌根菌 (AM菌) は陸上生物の7割以上との共生関係があり、地上では様々な種類の植物たちが競い合っていても地中では共生菌によって繋がっている可能性があります。
アーバスキュラー菌根菌にはリンの吸収促進・耐病性の向上・水分吸収の促進などの機能があり、菌の繁栄こそが生態系を形作るうえで最も大切な要素ではないかと思います。
従来の慣行栽培では畑の土を耕す段階で地中の生態系を破壊するので、人が多くの手間を欠けなければ育たない環境になります。
野菜を育てるよりも先に菌を主体に置けば、まず地中に存在する共生菌の充実を図る施策を打つはずです。
品種改良された野菜は共生能力が落ちているらしく、雑草の勢いに押されてしまうのもそのせいでしょう。
これは累代栽培でその土地に慣らせば回復するのかはわかりませんが、まったく育たず枯らしていた野菜が急に育つようになった事例もあるので、野菜だけでなく土の状態までよく観察すると何か気づきがあるかもしれません。
化学肥料のみでは土壌が豊かにならず使えば使うほど痩せていくので、それを補うために化学肥料を使い続ける悪循環に陥ります。
鉢植えならガチガチに固まっても植え替えれば良いですが、畑では有機質が不足してもなかなかそうはいきません。
化学肥料が必ずしも悪者ではありませんが、使い所を弁えないといつの間にか抜け出せない依存体質になるでしょう。
共生菌の活動を阻害せず自然の力を最大限まで引き出す自然農法や有機農法の拡大は肥料の使用を最小限に留め、有限の資源を消費せず持続可能な農業ができるので、国土の狭い島国で何事も輸入頼みな日本では特に重要性の高い課題です。
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