自宅で湿地帯ビオトープ!~生物多様性を守る水辺づくり 中島淳 (オイカワ丸) /大童澄瞳 ビオトープの作り方や自然との調和
目次
ビオトープ本の決定版となるか
4月下旬、気温が上がり人間にとって心地よい環境になることは動植物にとっても同じで、植物が芽吹き虫が活発に動き出す園芸や家庭菜園を始めるには適した時期です。
そんな春に『自宅で湿地帯ビオトープ!~生物多様性を守る水辺づくり』という書籍が発売され、Amazonではカテゴリ1位の売れ行きとなっています。
まずビオトープというジャンル自体それほど大きくはなく、書籍の種類も多くはありません。
その中でもお堅い参考書か睡蓮鉢でメダカを飼おう的な方向になり、初心者が純粋にビオトープを作るにはあまり適していません。
多くの人がイメージするビオトープは睡蓮鉢やプランターにホテイアオイやアナカリスを浮かべ、品種改良されたメダカや金魚を泳がせる感じですが、それはあくまで閉鎖的な環境作りでしかありません。
正しい倫理観を持ったうえで管理するなら問題ありませんが、近年では野生化した品種改良メダカが発見されたりと倫理観の欠如によって引き起こされた環境破壊が目立つようになりました。
野外に放置したままだと冬になればホテイアオイは枯れ、翌年に新しいホテイアオイを追加する必要があります。
自然界では人間が何かを追加しなくても生態系が形成され、半永久的に生命の営みが繰り返されます。
長期スパンだと堆積物により水辺は湿地に変わりやがて森になりますが、それでも何かしらの動植物がそこに存在します。
自宅で湿地帯ビオトープ!は水生生物研究に精通しビオトープの魅力に取り憑かれた中島淳 (オイカワ丸) さんが書かれた本で、さらに『映像研には手を出すな!』で知られる漫画家の大童澄瞳さんがイラストを手掛けています。
従来のビオトープ本からさらに踏み込んだ内容で、なおかつイラストによって初心者でも取っつきやすい本に仕上がっています。
「自宅で湿地帯ビオトープ!」を書こうと思った動機の一つに、ホームセンターなどで販売されているビオトープ用の水生植物のこともありました。これらは侵略的な外来種となる可能性が高いものばかりです。飼育・栽培という素晴らしい趣味が環境破壊を引き起こさないための基本的な知識を広めたいです。
— オイカワ丸 (@oikawamaru) April 27, 2023
自然とビオトープとの連携
サブタイトルの"生物多様性を守る水辺づくり"からも分かるように、ビオトープ単体ではなく自分が住む地域と連携させて様々な生物がやってくる水辺作りを提案しています。
わざわざ湿地帯ビオトープと銘打っているのは、水域だけでなくエコトーン (移行帯) という言わば湿地帯を設けて、より自然に近い水辺を再現しているからです。
水域か陸地かではなくその間をなだらかにすることで、生物が活動しやすい環境が整います。
ビオトープに何を入れるものもペットショップやホームセンターで購入したものではなく、なるべく身近な場所から採集したものを利用します。
外来種や品種改良された生物は野外に流出すると甚大な環境破壊を引き起こしますが、湿地帯ビオトープではそのリスクが抑えられます。
正直都市部ではすでに遺伝子汚染が進んでおり、例え野生のメダカを捕まえたとしても元からその土地で継承された遺伝子ではないことがほとんどです。
同じメダカでも生息地によって固有の遺伝子を持っているので、そこまで突き詰めると一般人が目視で判別することはほぼ不可能です。
メダカの卵は非常に丈夫なので水鳥に付着して別の水辺へ運ばれることもあり、そうなれば人為的ではなくとも遺伝子汚染が発生することになります。
外来種に関しても地球に境界線はなく史前帰化植物といった概念もあるので、本当の意味で自然とは何なのか考えさせられます。
水辺は生物にとって欠かせない場所であり、ビオトープを作る家庭が増えればそこで繁殖したり、水辺から水辺への中継地点として役立ちます。
人間のエゴで生物を選べない
ひとつ注意点としてビオトープを自然に近づけるということはより多くの生物を招き入れることになるので、わりと自然が豊かな地域ではカエルが住み着いたり、それを捕食するための蛇やともすれば猛毒のマムシがやってくる可能性だってあります。
カエル嫌いの人には耐えられないでしょうし、マムシに噛まれると大変危険です。
私が住んでいる地域は山が近くにあるので、真夏にはスズメバチが水を求めて飛んでくることがありました。
もちろん巣が近くにあるわけではなくスズメバチは来客側なので特に襲われることはありませんでした。
湿地帯ビオトープを作るということはあらゆる生物を受け入れる覚悟が必要だということを肝に銘じてください。
人間の都合で生き物に優劣をつけてしまうとそれは自然本来の姿とはかけ離れてしまいます。
また湿地帯ビオトープは在来種を基本にするので見た目が地味になります。
景観として玄関先などに設置するとまったく興味のない人には不思議がられると思います。
在来種でビオトープで飼えるくらい小さな魚となるとほぼメダカ一択となりますが、品種改良されていない黒メダカはあまり目立ちません。
野生動物から狙われにくいというメリットがあり、人への警戒心も強めです。
品種改良メダカに見慣れていると物足りなさを感じますが、太陽光をたっぷり浴びて育ったメダカは背中が黄金色に光り品種改良メダカに負けないほど美しくなります。
意識しないくらい自然と調和するのが理想
家庭の庭先やベランダに設置する小規模のビオトープでは最初こまめに手入れしてあげる必要があります。
繁茂した葉は藻を取り除き太陽光を適度に水中へ入れたり、堆積物を取り除きながら環境を維持していきます。
基本的には引き算の考えで整えて加えるのはメダカの餌くらいでしょうか。
湿地帯ビオトープが熟れてくると周囲との境界線が無くなり、たくさんの野生生物が水を求めて集まってきます。
最初は意気込んでいろいろ弄くりたくなるものですが、関心が薄れて放置気味になってきたくらいからが本番と言えるでしょう。
人が見ていない時でもビオトープの中では勝手に生態系が作られていくので、人が介入するのは必要最低限で十分なのです。
ビオトープを作り上げるのはあくまで自然の力であり、都市のなかで生物たちの活動できる場所を提供して陰ながら見守るのが我々にとって有意義な楽しみ方でしょう。
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